いつかの君と握手
てくてく。
てくてく。

どれくらい歩いたんだろう。
まだ隣の市にも入ってないのはかろうじて分かるんだけど、いまいち自分のいる位置が把握できない。
9年ってこんなにも景色を変えるものなんだろうか。
浦島太郎気分だわ。あたしの場合、時代を逆行してるんだけどね。


つーか、荷物重たい。
バッグの紐が肩に食い込んでるんだよね、さっきから。

あたしの荷物は、衣服や食品などを詰めた旅行用バッグと、しおりやおやつ、今は使えないケータイや財布などを入れたメッセンジャーバッグだ。

うーん、これから歩く距離を考えたらこの旅行用バッグが邪魔なんだよなあ。
きょろきょろと辺りを見回すと、前方にあるバス停の横に、コインロッカーがあるのを見つけた。


「イノリ、ストップ」

「え?」

「この荷物、邪魔なんだ。あそこに入れてく」


イノリを連れてコインロッカーへ。
旅行用バッグの中からタオルや替えのTシャツなど、必要そうなものをとりだして、詰め替える。
小さなロッカーにぎゅうぎゅうと押し込んで、無理やり閉めた。

よし、これで行動しやすい。

ロッカーの代金はなけなしの小銭でどうにか事足りた。


「あー、楽になった。さ、歩くの再開だ」

「うん」


進んでいくと、目的地へ繋がっている国道へと出た。
交通量の多い道路は、大型トラックもたくさん走っている。


「イノリ、こっち側歩きな」


歩道の内側にイノリを押しやると、小さな男の子はむ、としたように唇を結んだ。


「なに、どうしたの?」

「ぼく、男の子だから、そういうのいやだ」

「は?」

「父さんが言ってた。男は女の子を守るほうなんだぞ、って。
ぼく、男だから車の近くのほう歩く」


おお、すごい。
こんなに小さくっても、充分男だと、そういうことですね。
紳士的! ジェントルメン! ナイスメン!

しかし、だ。


「ダメ。そういうのは、自分より小さな女の子に言いなさい」


心意気は紳士でも、危ないもんは危ないのだ。


「なんだよー、それ」

「あたしはイノリより年上だし、それに体がおっきいでしょ。だから、この場合はあたしが外側なの。
でも、気持ちはすごくうれしい。ありがとう」


しゃがんで同じ目線になってから、頭を下げた。
あたしを女の子扱いして、守ってくれようとした、その気持ちには感謝だ。
まだ納得していない様子のイノリにそっと笑いつつ、国道沿いを進む。


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