いつかの君と握手
あれはあれで綺麗だけど、このかわいさは捨てがたいよー。
ああ、このまま成長しなければいいのに! 時間って残酷!
ぴょんぴょん跳ねていたイノリが、何か見つけたように急に駆け出した。


「イノリ!? どうしたの?」


鉄製のゴミの集積箱に真っ直ぐに駆けて行ったイノリは、鉄の蓋がついた箱に乗りあがった。
その上でまた遠くを見るように跳ねる。


「うあ、危ない! 危ないってば、イノリ!」

「だいじょうぶだってば。へへーん」


自信ありげに笑った次の瞬間、着地した足がずるりと滑った。


「うわ!」

「イノリ!」

抱きとめる猶予もなく、イノリは転げ落ちてしまった。
慌てて近寄る。


「いってぇ……」

「どこ打った? 怪我はない?」


座り込んだままのイノリを立ち上がらせ、体を確認する。
しりもちをつく形で落ちたので、頭は打っていないはずだ。
しかし、肘に擦り傷を作ってしまっていた。


「あー、血が滲んでる。反対側は平気? あとは痛いとこない?」

「へいき! ぼく男だし、こんなのどうってことないもん」


の割には眉間にシワ寄ってるんですけど。
男の意地ってやつ?
それなら見てみぬフリしてあげるけどさ。
でも。

頭にごつんとこぶしを落としてやった。


「痛い! ミャオ、なんでぶつのさ!」

「危ないことしたからだよ。今は平気だったけど、大怪我したかもしれないんだよ?
頭を打ってたら大変なことになったかもしんない。
それに、こういう公共物の上に乗ったらダメ。分かった?」


膝をついて、ぶすうとした不満げな顔を真正面に見て言う。
怒っていた瞳が、次第にしゅん、と沈んでくる。


「ごめん、なさい……」

「わかれば、よし」


頭を撫でてから、バッグの中から絆創膏を取り出した。
準備万端、美弥緒さん。


「ほら、腕出しな?」

「ん……」


細い腕が差し出される。
そこに絆創膏を貼りながら、くすりと笑った。


「なに? ミャオ」

「いや、イノリさー。あんた将来絶対いい男になるんだから、あんまし体に傷つけたらダメだよ。特に顔な。
イノリは綺麗な顔してんだからさ。大事にしなさいって母ちゃん言わなかった?」

「言わないよー、そんなの」

「そうなの? なら、覚えときな」


< 47 / 322 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop