いつかの君と握手
「うん。でもさー、ぼく男だから、怪我することもあるよ」

「確かにな。じゃあ第一に顔を守れ! なんてな、あはは。
でも、男だから怪我するってのはちょっと違うぞ。いい男ってのは、怪我しそうになっても、しないもんなんだ」

「ふう、ん」

「よし、これでいい。歩ける?」

「足はなんともないもん。歩けるよー」


ほらほら、と足踏みをしてみせたイノリは、少し残念そうに声を落とした。


「でも、いい場所、あそこからじゃ見つけられなかったんだ。ごめんね。
だけどぜったいにいい場所があるよ。ぼく見つけるもん。ミャオ、もう少しがまんしてね」

「うん。頑張る」


イノリににやにや笑いがバレないように、唇を噛み締めながら言った。
ああもう、かわいいようなあ、ちくしょう。


少し歩いた先に、小さな公園を見つけた。
ゾウの形をした滑り台と、鉄棒しかない公園の隅に、くたびれたベンチ。
ベンチの後ろには大きな木があり、ちょうど木陰になっている。
なんと水飲み場まであるではないか。

なんという便利スポット。偉いぞ、行政(でいいのか?)!


イノリと並んで座り、朝早くから母さんが作ってくれたお弁当を広げた。


「うわあ。すごくおいしそうだあ」

「たっくさん食べなさい」


幸子はイベントになると、異常なまでに張り切る性格だ。
今回も通常よりでっかいお弁当袋を渡されたので、たぶんすごいことになってるんだろうと思っていた。
なにしろ重かったしねー。


というわけで、今日のお弁当。お品書き。

・梅おかかおにぎり
・明太子入り卵焼き
・チーズ入りチキンカツ
・オクラの梅和え
・白身魚のカレーソテー
・たくさんのフルーツ

張り切りすぎー、これー。
つーか女子高生のお弁当の量じゃなーい。
でもまあ、イノリと二人で食べるには充分すぎるほどだったので、お母さんありがとうございました。


「もうお腹いっぱいだあー」

「あたし食べすぎた。キツイー」


買ったペットボトルのお茶がこの食事でなくなったので、水飲み場の水を入れ足した。
それをバッグに押し込んで、立ち上がった。


「よし、イノリ、再開するよー」

「うん」


夕方までには、イノリの住んでたアパートを見つけたい。
頑張るぞ、と。


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