いつかの君と握手
再び国道沿いを歩く。

車の排ガスって、くさいし熱いんだよなあ。
うーむ、車内はエアコンでひんやり涼しいんだろうなー。
車っていいなー。文明の利器だよ。
目的地に早くつくし、ナビさえあれば迷わないしさ。


「あ。ヒッチハイクはどうだ!」


ぽん、と頭の中に湧いたイメージ。
金髪巨乳のセクシー姉ちゃんが星条旗柄のタンクトップ着て、親指立てながら腰ふるあれ。
えーと、んでもってスケブみたいなやつに行き先書いたりするんだよ、確か。
おお、イメージはさておいて、名案かもよ。ヒッチハイク。

えーと、あたしたちの場合だと、スケブになんて書けばいいんだろ。

「イノリんち」?
いやいや。無理無理。

「加賀家」?
名家の屋敷かよ。アパートだっつの。

「アパート名」
うん、これはまあアリかな。

って、そのアパート名がわかんないんだよなあ。
イノリが言うには漢字だったらしいんだけど、『●●荘』的な名前だろうか。
難しいなあ。行き先、なんて書いたらいいんだ。

いや、待てよ。
よくよく考えたらヒッチハイクって怖くないか?
見知らぬ人の善意に頼るわけだよね。
今の時代、いい人か悪い人か、見極めが大切だと思うんだよね。
相手を見誤った場合、家とかバレていいものなのか?
それに、車内って密室なんだよなー。
行き先は完全に他人任せだし、自分の行きたいところに連れていってもらえない可能性も否定できんな。


あたしたちはいたいけな6歳児と、女子高生ブランドを一応持っている女の二人組。
極悪なおっさんに言いくるめられたら大変じゃん。
あたしはイノリを守らないといけないのに、無謀なことはできないよなー、やっぱり。

ヒッチハイク案、却下。
やっぱ自分の足が一番確かだわ。

つーか、金髪巨乳のセクシー姉ちゃんなんて、もっとヤバいんでない?
猛獣みたいな男に乗せられたりしたらさー。
狼に子羊?
完全にディナー。メインディッシュでしょ。

ヒッチハイクって結構賭けだよね。


「ミャオ? ぶつぶつ言ってどうしたの?」

「え? 口に出てた?」


イノリに不思議そうに訊かれて、笑ってごまかす。
思考が別方向にいくのって、あたしの悪い癖だなー。


「お。イノリが住んでた市に入るよ」


見上げる位置に、地名を記した看板が出ていた。
駅で広げた地図をざっと思い返す。
目的地周辺まであと少し!


「もうすぐ、おうちに帰れるの?」

「父ちゃん、いるといいなー」


イノリの頭をぐりぐりと撫でる。
汗ばんだ頭が揺れて、イノリが愉快そうに笑った。


「ミャオってさー」

「ん? なに」

「そうやってよしよしするの、母さんみたいだ」

「イノリの母ちゃん、こんなに乱暴に撫でるの?」

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