いつかの君と握手
「早く行こう、ミャオ!」

「ちょ、ちょっと待って。急がなくて大丈夫だからさ」


ぐいぐい引かれて、つんのめる。
元気だなー。結構な距離歩いたっていうのに。


進むにつれ、イノリは自分のいる位置を把握できたらしい。
迷わずに学校の正門近くまであたしを連れて行ってくれた。


「帰りはあそこで先生が見送ってくれるんだよー。今日は誰かなー」


正門の前まで行こうとするのを慌てて引き止める。


「ちょ、ちょい待ち。イノリ」

「なんで?」

「大澤の父ちゃんがこっちに連絡してないとも限らない。見つかったら連れ戻される」

「あ、そ、っか」


途端に顔色を変え、きょろきょろし始める。


「今のところ大丈夫だと思うけど。加賀の父ちゃんに会うまでは気をつけないとさ」

「う、うん。 ごめん、ミャオ」


自動販売機の陰に立ち、こそこそと会話。
高学年らしき、黒いランドセルの男の子が不思議そうな視線をよこした。


「で、ここまで来たらどっちに行けばいいか、分かる?」

「うん。あっち!」


幸いにも、正門前を通らずに済みそうだ。門の手前を右に曲がる道を指差したイノリに頷く。
正門前に注意を払いながら、曲がり道に入った。


「こっち。こっちだよ」


イノリに手を引かれて歩く。
気が急いているのだろう。さっきよりも随分足取りが速い。


「わかったって。ほら、足元見ないとこけるよ」

「あ! あそこだよ。あの建物!」


イノリが指差した先に、古ぼけたアパートがあった。
二階建ての茶色いモルタルのそれは、随分年季が入っていた。
壁に蔦が絡んでるし。壁にはひびが入っている。
金属製の外階段も錆がびっしり浮いていた。
しかし、気にするところはそこじゃない。

手近な家の垣根の陰に隠れておくようにイノリに言い、先にアパート前まで行ってみた。

怪しい車、なし。人探し風の大人、なし。
ふむ、大澤父はここにはいないみたいだ。

アパートをつい、と見上げる。
確か、ここの二階の角部屋だって言ってたな。どっちだ?

あ。両方ともベランダに洗濯物が干してある。
つーことは、住人がいるってことだよね。
おおおお、加賀父、いるじゃーん!

ダッシュでイノリの元に戻り、手をひいた。


「父ちゃん、いるみたいだよ。やったじゃん!」

「ホント!?」

「うん。だから、行こう」


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