いつかの君と握手
おねいさんはミニのランジェリーの裾をふりふりさせて室内に入って行った。
あの、派手派手なパンツまで丸見えですけど。
まあ、乳首をかろうじて隠しているだけの下着だしな。パンツくらいどってことないか。


「父さん、いないのかな……」

「みたい、だね。でも、もしかしたらあのおねいさんが行き先知ってるかもしれないし、訊くだけ訊いてみよう?」


玄関先で話していると、奥からぐええええええ、という低い唸り声と、おねいさんのきゃんきゃんした金切り声がした。


「怖いよ、ミャオ」

「だ、大丈夫。あたしの後ろにいな?」


必要な情報だけ聞いたらすぐさま逃げ出そう。
ドアを開けたまま、そろそろと部屋に入った。

短い廊下を抜け、紺色の暖簾をくぐる。
そこには汚れたお皿が重ねられ、ビールの缶が山積みになったキッチンと、おねいさんに布団の上でキャメルクラッチをかけられている、半裸の上きらきらの金髪頭の男の人がいた。

「こんな若い女の子にまで手をつけたんかい、オマエは。死ね。6回死ね」

「ぐ…………はっ! 柚葉、オレ……死……」


ばんばんと布団を叩く男の人。
容赦なく胴体を逆折りにするおねいさん。


「あ……、三津さん?」


あたしの陰からそっと様子を窺っていたイノリが、は、としたように名前を呼んだ。
男の人がそれに反応して視線を寄越す。


「ぐ…………っ、あ、れ? 祈!?」

「イノリ!? それがあの女の子の名前かあああぁぁあぁぁあ!?」

「ち、ちが…………っ、ああああああああああ!?」


ごきん、という鈍い音とともに、男の人は絶命した。



ということはなく。
絶叫したものの、一命は取り留めた。腰がいかれたようですけど。


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