いつかの君と握手
それと、風間さんというのは加賀父の芸名だそうだ。
風間一心(かざま・いっしん)だって。
ぎゃー、かっこいい名前ー。つーか絶対かっこいいって。
オラわくわくしてくっぞ。


「あ、でも比奈子(ひなこ)だったらわかるかもなー」

「ああ、風間さんにべったりだった子か。あの子なら知ってるかもね。
白馬の王子様を待ちそうなタイプなのに、風間さんなんだよね」


ほうほう、一心さまは王子さまタイプではないってことね。
いいねいいねー。
ワイルド系、いやいやここはダンディ系?
実はあたしは王子系は好みじゃないのだ。

じゃなくて。


「比奈子さんっていう人に訊けば、何かわかるかもしれないんですか?」

「確かかどうかはわかんねーけど、もしかしたらな。
つーかさ、祈。オマエなんで風間さん探してるの? ちゃんと家の人に断ってきてんの?」

「ええと、う、うん……」

「本当かよ。逃げ出してきたんじゃねーの?」

「なになに、どーいうこと? 意味わかんないんですけどー」


祈と三津さんの間に気まずい空気が流れる。
それに割り込むようにして、柚葉さんが口を開いた。


「風間さんの奥さんは知ってたよな? サヤカさん」

「もちろん知ってるよ。公演のときに何回も会ったことあるもん。かわいい人だったよねー。好きだったなー、アタシ」


柚葉さんが思い出したように言って、祈にぺこんと頭を下げた。
寂しそうに笑みを浮かべる。


「病気だったんだよね。アタシ、入院したのも知らなかったから、お見舞いに行けなかったんだ。しかも仕事が抜けられなくてお葬式にも出られなかった。それをすごく申し訳なく思ってたの。ごめんね」

「ううん、いいよ、そんな」


そうか。やっぱり病気だったのか。
カバから助けてくれたときの涙を思うと、胸がキリリと痛んだ。


「でさー、こいつはさ、サヤカさんの連れ子なんだよ。
風間さんと血の繋がりが一切ねーの。
で、風間さんはサヤカさんが亡くなったあとに、実の父親ってのに祈を渡したんだってさ。
やっぱ血が繋がってる奴が育てないとだよなー。そうだろ、祈?」


最後の言葉を向けられたイノリが小さく頷いた。そのまま顔をあげずに俯いている。

おい、三津(敬称不必要と判断)。
馬鹿か、オマエ。
こんな小さな子どもの傷をえぐるような言い方すんな。
そのヒヨコの産毛みたいな毛、毟るぞ、コラ。

見たところ、三津は20代半ばと見た。
充分オトナの対応をとれる年齢だろう。
これじゃあ小学生のほうがよっぽどマシな対応するだろうよ。


比奈子さんとやらの連絡先を聞いてから、文句の一つでも言ってやるか、と心に決めていると、
すんごい勢いで、柚葉さんが三津の喉仏めがけてラリアットを入れた。
ごっすうううう、と三津が派手にすっ飛ぶ。


「アンタ、ほんっとうに馬鹿だね! 頭ン中にゴミでも詰まってんじゃないの!?
言い方考えなさいよ!」

「く……っ、ぅ! ちょ……ゆず」

「アンタのその考えなしなとこキライなの! 他人の気持ち考えたことないでしょ。
祈くんに誠意をこめて謝罪しな!」


言って、転がった三津に蹴りを一発。


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