いつかの君と握手
「うん。一体何なんだ、あいつ」

「ミャオちゃんが好きなんじゃないの?」

「ないない。あるはずがない」


琴音にはは、と軽く笑ってみせて否定した。
最近じゃ、視線を感じると同時に睨みつけてるからね。
気持ちの中では殺光線だしてるしね。
仮に恋だのなんだのあったとしても、瞬殺でなくなるよ。


「でもさあ、彼女とかつくらないじゃん? 告られても断ってるっていうし。 大澤くんが意識してる女の子って、ミャオちゃんだけなんだよ」

「え、そうなの? あたし、大澤争奪戦が絶対あるとふんでたんだけどな」


寝不足の充血した目でオラオラと睨みを返すと、ぷいと逸らされた。

朝からイラつかせんなっつーの。
大澤から琴音に視線を戻すと、琴音はぷるぷると首を横に振った。


「争奪戦なんて、そんなのないよう。色恋沙汰ってなに? って感じ。大澤くんって誰が声かけてもブアイソだし、告れば即座に断るって話だし」

「ふうん。変なやつ」


あたしなんかに怪視線を送るくらいなら、他の女の子ときゃっきゃうふふ♪ を楽しめばいいのに。
せっかくの容姿がもったいない。


「だからミャオちゃんが好きなんだよ、きっと」

「それはないってば」

「おし、座れー。朝のH・Rはじめるぞー」


ガラガラのしゃがれた声が響いた。
見れば担任の森じいが、出席簿を片手にのそりと入ってきたところだった。
熊みたいな大きな体の森じいは、さながら森の番人といった感じのおっさんだ。
のっしのっしという擬音がお似合いの、威圧感たっぷりの歩みで教卓の前に立った。
てきぱきと出欠をとり、連絡事項を伝える。


「……えーと。それでだな。今日の一限目は、俺の授業の予定だったんだが。 それを変更して、来週の12・13日の一年生親睦旅行についての説明及び班分けを行う」


それを聞いて、少し教室内がざわめく。琴音がそっと振り返って、
「一緒の班になろうね」
と言うので、頷いた。


一年生親睦旅行とは、その名の通り、一年生の親睦を深めることを目的とした、一泊二日の旅行である、らしい。
そんな旨を書いたプリントを数日前にもらった。
行き先は、隣県のK県。
温泉のある簡易宿泊施設があるらしい。
そこで、オリエンテーリングなどを行うのだとか。

ちなみにおやつは500円以内らしい。
そうかー、高校生になってもそんな縛りを受けるのか。
いい加減、自己判断でいいんじゃないのかなー。
小学生風に言えば、手作りクッキーとかはどうなるんですかー。
気持ち込めてるし、そこはやっぱりプライスレスですかー? なんてな。


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