いつかの君と握手
「いやー、案外弱いですねー、三津ってば」

「そうなのよー。押しに弱いっていうの? 誘われたら断れない性格だしねー」

「うう、なんだこれ。何のバツゲームだよ……」


あれから座布団を頭に被り、うつぶせで凹んでいる三津。
その背中を、イノリがそっと撫でた。


「三津さん、はずかしかったの? でも、こういうのって照れたらダメなんだって父さん言ってたよー」

「……オマエもな、あと7・8年したら今のオレの気持ちが分かるようになるさ」

「ええー、なんでえ? なんで今のぼくじゃわかんないの?」

「自分のことを『ぼく』って呼んでるガキにゃわかんねーんだよ」

三津の投げやりな言葉にイノリがむ、とした顔つきになる。
子ども扱いされると怒るんだよなー、この子。


「ぼくって言うのの、なにが悪いのさ。変なの」

「それが、悪いんだなー。あと、下着がブリーフなのも、コドモの証拠なんだぜ?」

「ええ、なんでえ!? クラスのみんなもおんなじパンツ履いてるよ?」


どうやら、イノリの反応が面白かったらしい。
座布団の陰から顔をだした三津の顔は、黒い笑みを浮かべていた。


「バッカだねー、祈。そりゃオマエのクラスの男たちがコドモなんだよ。ウルト●マンのブリーフなんつったら、もうサイアク。
オムツ履いてんのと一緒だかんな」

「……仮面ライダーは?」

「ぶふっ。同じだっつーの。母ちゃんのおっぱい飲んでますつってるようなもんだな。
男はな、トランクス。ないしはボクサーパンツって決まってんだよ。
風間さん、父ちゃんはどうだった?
オマエと一緒だったか? 違うだろ」

「ちがう、けど。だってそれは大人のだって、母さんが」


イノリの口調がしどろもどろになる。
三津の子供じみた言葉いじりにショックを受けているのが明らかだ。

間に入るべきだろうか。

でもイノリの戸惑う様子がかわいいので、もう少し見たいような。
おどおどし始めた顔を見ていると、三津がふふん、といじめっ子のような笑いを見せた。


「大人の、って母ちゃん言ったんだろ。ってことは、オマエのパンツはコドモ用ってことだなあ? な、オマエはコドモですーってパンツで語ってるようなモンなんだよ」

「パンツでわかるの? おかしいよ! そんなの」
「おかしくねーよ? 女の子にさ、『ヤダ、イノリくんったら赤ちゃんパンツよー、ウフフー』なんて笑われてーの?」

「そんな……笑われちゃうの?」

「多分なー? でもまあ、オマエはコドモだし、仕方ねーよ。
笑われて男は成長すんだぜ?」


これはもう完全な八つ当たりである。
イノリをいじることで、ストレス発散している。

そろそろ止めるべきだな、と。


「三……」

「じゃあ、どうしたらいいの? 父さんみたいな大人になるにはさ」

「おいおい、そこはオレみたいな、っつーとこだろうが」

「三津さんは、ちょっと……いいや」


なんだ、自力で反論できてるな。
ぐむむ、と悪人よろしく唇を噛んだ三津を、柚葉さんと指を指して笑った。


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