いつかの君と握手
「なんですか?」
すく、と立ち上がり、顎で隣室を指す。
「向こうの部屋に、いやその奥の押入れに隠れてろ。奥だぞ、絶対出てくんな。
柚葉、オレが出る」
「え? あ、あの」
「祈を連れて行かれたくないなら、そうしてろ」
よくわからないけど、三津の顔は真剣だし、イノリを連れていかれるというのはヤバい。
イノリの背中を押して急いで隣室へと入った。
押入れを開け、飛び込む。
ぱたん、と閉めたと同時に、ドアが開く音がした。
「こんにちわぁ。あ、三津さん、祈くんどこですかぁ?」
お。声がよく聞こえるー。
古いアパートだし、壁が薄いのかな。
「こっちにはもう来ないっつってなかったっけ? で、イノリって?」
ぶっきらぼうに答える三津。
どうやら比奈子さんって人には、イノリのことを黙っておくつもりのようだ。
変なのー。
加賀父のファンだっていうのなら、その子どものイノリのために協力してくれそうなもんなのにな。
「やだ、しらばっくれちゃって。一心さんの義理の息子の祈くんですよぅ。ここにいるんでしょ?」
あ。今『義理』ってとこを強調した。
なるほど、そういうことか。
祈をよく思ってないわけね。
「いないけど。つーかなんでここに風間さんの子どもがいるんだよ。わけわかんね」
「嘘はいいですってばあ。
みんなに一心さんの居場所を訊いてまわってるのって、祈くんを連れてくためでしょ?
祈くんのお父さん、劇団にも来られたんですよ。
いなくなったんだけど、一心さんを探してうろついてるんじゃないだろうかー、って。
祈くんは劇団には来なかったから、あとはこの部屋しかないでしょお?
で、暇な三津さんは、やってきた祈くんを一心さんのところに連れて行ってやろう、と思った、と。
どう、アタリじゃないですかあ?」
何だかねっとりした話し方をする人だな。
ついさっき電話口で喧嘩してたわりに、媚びたような色もあるし。
うーん、あんまり好きなタイプじゃないかも。
「意味分かんねーっつってんじゃん。風間さんにはオレが個人的に用があったの。
で、その内容をいちいちオマエに言わなくちゃいけないわけ?」
「だーかーらー、嘘はいいんですってばぁ。わたし、大澤さんに連絡したんですよう。すぐ来るって言ってたから、早くしてくださーい」
暗い押入れの中で、イノリの手をぎゅ、と握った。
ヤバいヤバい。
大澤父、ここに来るわけ?
「ミャオ……やだ……」
イノリが小さく呟いた。
「だいじょぶ、だいじょぶだよ。三津たちがきっと助けてくれるから」
繋いだ手をぐいっと引いて、小さなイノリの肩を抱いた。
すく、と立ち上がり、顎で隣室を指す。
「向こうの部屋に、いやその奥の押入れに隠れてろ。奥だぞ、絶対出てくんな。
柚葉、オレが出る」
「え? あ、あの」
「祈を連れて行かれたくないなら、そうしてろ」
よくわからないけど、三津の顔は真剣だし、イノリを連れていかれるというのはヤバい。
イノリの背中を押して急いで隣室へと入った。
押入れを開け、飛び込む。
ぱたん、と閉めたと同時に、ドアが開く音がした。
「こんにちわぁ。あ、三津さん、祈くんどこですかぁ?」
お。声がよく聞こえるー。
古いアパートだし、壁が薄いのかな。
「こっちにはもう来ないっつってなかったっけ? で、イノリって?」
ぶっきらぼうに答える三津。
どうやら比奈子さんって人には、イノリのことを黙っておくつもりのようだ。
変なのー。
加賀父のファンだっていうのなら、その子どものイノリのために協力してくれそうなもんなのにな。
「やだ、しらばっくれちゃって。一心さんの義理の息子の祈くんですよぅ。ここにいるんでしょ?」
あ。今『義理』ってとこを強調した。
なるほど、そういうことか。
祈をよく思ってないわけね。
「いないけど。つーかなんでここに風間さんの子どもがいるんだよ。わけわかんね」
「嘘はいいですってばあ。
みんなに一心さんの居場所を訊いてまわってるのって、祈くんを連れてくためでしょ?
祈くんのお父さん、劇団にも来られたんですよ。
いなくなったんだけど、一心さんを探してうろついてるんじゃないだろうかー、って。
祈くんは劇団には来なかったから、あとはこの部屋しかないでしょお?
で、暇な三津さんは、やってきた祈くんを一心さんのところに連れて行ってやろう、と思った、と。
どう、アタリじゃないですかあ?」
何だかねっとりした話し方をする人だな。
ついさっき電話口で喧嘩してたわりに、媚びたような色もあるし。
うーん、あんまり好きなタイプじゃないかも。
「意味分かんねーっつってんじゃん。風間さんにはオレが個人的に用があったの。
で、その内容をいちいちオマエに言わなくちゃいけないわけ?」
「だーかーらー、嘘はいいんですってばぁ。わたし、大澤さんに連絡したんですよう。すぐ来るって言ってたから、早くしてくださーい」
暗い押入れの中で、イノリの手をぎゅ、と握った。
ヤバいヤバい。
大澤父、ここに来るわけ?
「ミャオ……やだ……」
イノリが小さく呟いた。
「だいじょぶ、だいじょぶだよ。三津たちがきっと助けてくれるから」
繋いだ手をぐいっと引いて、小さなイノリの肩を抱いた。