いつかの君と握手
車内は異様な熱気が満ちていた。
その空気の発生源は、他でもないこのあたしである。
あれから、三津の愛車という超がつくくらいのぼろぼろの軽ワゴン車に乗り、アパートを後にした。
それからコンビニに寄り、三津の財布からジュースとお菓子を大量に買ってもらった。
三津は半分、いや殆ど泣いていたが、柚葉さんの一言で黙って財布を開いていた。
すまない、三津。
無一文なのは、本当に申し訳ない。心からお詫びしよう。
全力でカゴにお菓子を投入したことに後悔はないけれど。
で、車内でのんびり小旅行ムードを楽しんでいたのであったが、
あたしは衝撃の事実を柚葉さんから聞いてしまったのだ。
あああああ、なんということだ。
このタイムスリップに意味があるのだというのなら、間違いなくこれではないだろうか。
いや、これしか考えられない。
なんと、なんと。
「加賀父って、本当に『や組の金吾(きんご)』だったんですか!?」
「そうなのよう! あの金吾様なのようっ!」
なんと、加賀父は、鳴沢様のドラマにご出演遊ばされていたのである。
しかも、逸話揃いと名高い三代目シリーズの中でも珠玉の、『江戸炎上計画は嵐と共に・前後編』に登場した、や組の金吾役で、だ。
こここここここここれは、金吾さまに会うための道行きだったのですね!?
やだどうしよう、どうしてこんなTシャツ姿で会わなくちゃいけないの!
どうせなら、ばあちゃんが娘時代に着ていたという着物を着ていたかった。
髪も結ってさあ、軽く化粧とかしちゃってさあ。
あああああああああああ、悔ーやーまーれーるー!
金吾様は、あたしの初めての浮気相手である。
もちろん、本命は鳴沢様なのだが、月代(さかやき)のまぶしい金吾様の若々しい魅力といったら、もう!
鳴沢様とは違うタイプで、なかなかに魅力的なのだ。
破天荒で男らしく、男性的魅力に溢れた金吾様に、あたしの恋心は揺れに揺れた。
鳴沢様にときめき、金吾様にきゅうううん、と胸を痛める。
ああ、これが恋に翻弄される女心なのですね、とまあそんな感じだ。
そんな素敵な金吾様は、ラストは恋した武家の姫と江戸を出て行ってしまうのだが、
姫と寄り添い去ってゆく姿に、あたしはただただ、テレビの前で泣いた。泣き崩れた。
彼の登場話は2話だったので、浮気から失恋までを、二週間で経験したことになるのだ。
って、幼稚園児のころの話なんですけどね、へへ。
でも、金吾様への憧れがなくなったわけではない。今でも大好きなお方。
そのお方に会えるなんて、どうしたらいいのー。
ああ、今なら比奈子の執着ぶりも理解できる。
金吾様に優しくされたら、どハマりしますよ、そりゃ。
あたしだけのものよ! ってなっちゃうかもね、うん。
「父さん、そんなにすごいの?」
ぎゃー、だの、ひゃわわわわ、だの叫んでいるあたしに、イノリが嬉しそうに訊いた。
「当たり前じゃん! イノリ、みんなに自慢していいんだよ? 父ちゃん、ううん、金吾様は本当に素敵でかっこいいんだから!」
あんな人がお傍にいるだなんて、それはもう自慢するしかないだろう。
あたしだったら、でかい名札を作って毎日首からぶらさげていたところだ。
「そうよー。あんな人、そうそう出会えないのよ。それが父親だなんて、自慢していいのよ」
護衛隊の柚葉さんも力強く頷くと、イノリはへにゃりと笑った。
「そっかあ。おれ、父さんの仕事ってよくわかんなかったんだ。ちょんまげつけてるやつも、おもしろくなかったし」
その空気の発生源は、他でもないこのあたしである。
あれから、三津の愛車という超がつくくらいのぼろぼろの軽ワゴン車に乗り、アパートを後にした。
それからコンビニに寄り、三津の財布からジュースとお菓子を大量に買ってもらった。
三津は半分、いや殆ど泣いていたが、柚葉さんの一言で黙って財布を開いていた。
すまない、三津。
無一文なのは、本当に申し訳ない。心からお詫びしよう。
全力でカゴにお菓子を投入したことに後悔はないけれど。
で、車内でのんびり小旅行ムードを楽しんでいたのであったが、
あたしは衝撃の事実を柚葉さんから聞いてしまったのだ。
あああああ、なんということだ。
このタイムスリップに意味があるのだというのなら、間違いなくこれではないだろうか。
いや、これしか考えられない。
なんと、なんと。
「加賀父って、本当に『や組の金吾(きんご)』だったんですか!?」
「そうなのよう! あの金吾様なのようっ!」
なんと、加賀父は、鳴沢様のドラマにご出演遊ばされていたのである。
しかも、逸話揃いと名高い三代目シリーズの中でも珠玉の、『江戸炎上計画は嵐と共に・前後編』に登場した、や組の金吾役で、だ。
こここここここここれは、金吾さまに会うための道行きだったのですね!?
やだどうしよう、どうしてこんなTシャツ姿で会わなくちゃいけないの!
どうせなら、ばあちゃんが娘時代に着ていたという着物を着ていたかった。
髪も結ってさあ、軽く化粧とかしちゃってさあ。
あああああああああああ、悔ーやーまーれーるー!
金吾様は、あたしの初めての浮気相手である。
もちろん、本命は鳴沢様なのだが、月代(さかやき)のまぶしい金吾様の若々しい魅力といったら、もう!
鳴沢様とは違うタイプで、なかなかに魅力的なのだ。
破天荒で男らしく、男性的魅力に溢れた金吾様に、あたしの恋心は揺れに揺れた。
鳴沢様にときめき、金吾様にきゅうううん、と胸を痛める。
ああ、これが恋に翻弄される女心なのですね、とまあそんな感じだ。
そんな素敵な金吾様は、ラストは恋した武家の姫と江戸を出て行ってしまうのだが、
姫と寄り添い去ってゆく姿に、あたしはただただ、テレビの前で泣いた。泣き崩れた。
彼の登場話は2話だったので、浮気から失恋までを、二週間で経験したことになるのだ。
って、幼稚園児のころの話なんですけどね、へへ。
でも、金吾様への憧れがなくなったわけではない。今でも大好きなお方。
そのお方に会えるなんて、どうしたらいいのー。
ああ、今なら比奈子の執着ぶりも理解できる。
金吾様に優しくされたら、どハマりしますよ、そりゃ。
あたしだけのものよ! ってなっちゃうかもね、うん。
「父さん、そんなにすごいの?」
ぎゃー、だの、ひゃわわわわ、だの叫んでいるあたしに、イノリが嬉しそうに訊いた。
「当たり前じゃん! イノリ、みんなに自慢していいんだよ? 父ちゃん、ううん、金吾様は本当に素敵でかっこいいんだから!」
あんな人がお傍にいるだなんて、それはもう自慢するしかないだろう。
あたしだったら、でかい名札を作って毎日首からぶらさげていたところだ。
「そうよー。あんな人、そうそう出会えないのよ。それが父親だなんて、自慢していいのよ」
護衛隊の柚葉さんも力強く頷くと、イノリはへにゃりと笑った。
「そっかあ。おれ、父さんの仕事ってよくわかんなかったんだ。ちょんまげつけてるやつも、おもしろくなかったし」