いつかの君と握手
「――――だぁっ! 疲れたぁ!」

「お疲れ様です!」


コンビニの駐車場で大きく伸びをする三津に頭を下げた。

K県に入ってから、1時間ほど走った。
目指す柳音寺までは後1・2時間はかかるだろう、と地図とにらめっこしていた柚葉さんが教えてくれた。


「お寺の名前を電話帳で調べたんだけどー、それの住所からするとね、多分この辺り。けっこう田舎よ」

「まだ先はなげーなー。あー腰いてえ」

「電話、しなくていいですかね? 遅くなりそうですし」


ケータイの時計を見れば、もうすぐ21時。
2時間かかるようであれば、連絡したほうがいいよね。


「それがさー、さっきのトイレ休憩の時にかけてみたの。そしたら留守を任されてるって言うおばあさんが出て、風間さんはちょっとでかけています、って。
でも耳が遠いらしくってさー、まったく話が噛み合わなくて困ったわ」

「そうですか……。でもいるんですよね? 少し出かけてるってことは、帰ってくるんですよね?」


訊くと、そうでしょうね、と柚葉さんが言った。

よかった。今度は絶対にいるんだ。
この先に、イノリの待ってる人がいる。


「ミャオー? おれトイレ行ってくる」

「あ、オレも行く! 祈、一緒に行こうぜ」

「うん」


仲良くコンビニに歩いていく二人の背中を見送る。


「なんだか兄弟みたいねー」

「仲よさそうですよね」


三津の腕にぶら下がって笑い声をあげた、無邪気な顔が店内の明かりに照らされた。


「加賀父は、なんであんなにかわいい子を、置いて帰っちゃったんでしょうか」

「そうね」

「イノリ、かわいそうです」

「そうね……」


血の繋がった父親のほうがいいから、と言ったらしいけど、それって重要なのかな。
イノリにとって誰が必要なのか、それが大切なんじゃないの?


「でも、アタシは、ちょっと風間さんの気持ちわかる」

「え?」


あたしより幾分背の高い柚葉さんを見上げた。
柚葉さんは2人がいる明るい店内に視線をやりながら、話してくれた。


「風間さんたちの劇団ってね、小さいの。ヒジリも言ってたけど、ホントに貧乏劇団。
公演だって小さなトコで細々やって、知り合いをかき集めて採算とってる。
だからみんな何かしらの副業……ううん、本業の傍らで演劇やってるって感じ。

ヒジリだって、ああ見えてイタリアンレストランのコックよ?」

「え、うそ」


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