いつかの君と握手
三津の運転する車は、人気のない道をひたすらに走っていた。

進むにつれ街灯が少なくなり、ほとんど真っ暗になった。その暗闇の中、田んぼと田んぼの間を縫うように進む。
その合間に、思い出したように民家が現れる。
家は農家のそれらしく大きな日本家屋ばかりで、暗くてよく分からないものの、蔵のようなものまで見てとれた。
なんとなく、日本昔話の庄屋様の屋敷を思わせた。


「すんげー田舎。さっきのコンビニ以来、店見てねーぞ」

「ホント。のどかな感じよねー」


柚葉さんの話だと、あと少しで、目指す柳音寺に着くそうだ。
時間は既に23時を回り、小学生のイノリには辛い時刻のはずだが、イノリはキラキラした瞳で窓の外を眺めている。


「もうすぐ会える。もうすぐ……」


小さな声で繰り返し呟くイノリ。
頑張った1日の終わりに、いいことが待っていてよかったね。


「あ。あれ、お寺っぽくない? ほら!」


柚葉さんが暗闇の奥を指差す。
目を凝らせば、確かに大きな瓦屋根らしきものが見える。


「住所からすると間違いないと思う。祈くん、もうすぐよ!」

「はいっ」


目指す人までもう少し。
イノリを見ていたらこっちまでどきどきしてくる。
身を乗り出して、車の行く手を見つめた。


キキ、と車が止まった。

右手には大きな門。その横に、大きく『柳音寺』と毛筆で書かれた看板がかかっている。


「ここで間違いねーな。ほら、祈、行けよ」


三津が車のロックを外すと、イノリが飛び出すようにして車を出た。
門の中へ真っ直ぐに駆けてゆく。


「父さん! 父さん!」

「あちゃ、あいつこんな時間に大声だして迷惑……はないか。隣家がないもんな」

「みーちゃん、追いかけてやって。アタシたち、どこかに車停めてから行くから」

「はい」


急いで中に消えていったイノリを追う。
門を入って正面に本殿らしき建物。
しかし暗くてよくわからん。
イノリはどこに行ったんだ。


「あ、灯り」


左手奥に電灯の明かりが見えた。
とりあえずあっちに行ってみるか。


「イノリー? イノリー?」

「ああん? 誰ですかいのお?」

「だから! 加賀一心です。おれの父さんをだしてください!」

「イノリ? こっち?」


明かりへ向かうと、小さな玄関口でイノリがおばあさんに食ってかかっていた。

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