Raindrop~Mikoto side
本に囲まれた重苦しい書斎で、いつものように私に背を向けて父は待っていた。

「……何の用ですか」

あまり良い予感はしない。

それが私の口調を硬くする。

「一条から連絡が来た。婚約発表は年明けにするそうだ」

「……そう、ですか」

勇人さんときっぱり別れた今となっては、発表がいつになろうとどうでもいいことだったけれど。

“自由”の終わりを示す砂時計が、ゆっくりと落ち始めるのを感じた。

「12月に一度帰国するそうだから、先方とはそのときに色々打ち合わせなさい」

「はい」

「まあ、お前はヴァイオリンを弾いていればいいんだ。そう構える必要もないがな」

父の口調は淡々としていた。

いつもそうだった。

けれど。

「ヴァイオリンを……弾いていれば、いいって?」

「前にも言ったはずだ。先方はヴァイオリンを続けてもいいと言っていると」

「それは……聞きましたけど」

「他には何もしなくていい。スキャンダルなど起こして会社のイメージダウンになるようなことさえしてくれなければな」

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