Raindrop~Mikoto side
それから、和音くんも私へのプレゼントとして、ヴァイオリンを弾いてくれると言った。

彼の心地よい音は好きだ。

レッスンの時間を毎週楽しみにしているし、その音が心の癒しにもなっている。


リクエストしたのはバッハの『シャコンヌ』。

先日、コンセルヴァトワールを受験する予定の和音くんに渡した教本の中に、この曲が入っていたはず。

真面目な彼は、きっと目を通し、早々に練習を開始したに違いない。

どれだけ弾けるようになったか。

名曲『無伴奏ヴァイオリンパルティータ第二番』を、どのように解釈したのか興味があった。


いつもより少し不安げな顔で弾き始めたけれど、やっぱり凄い。

練習が足りないせいもあり、確かに音は安定していなかったけれど、バッハの重厚感がきっちりと表現されていて、感嘆の溜息が漏れた。

「納得いく演奏が出来るようになったら、また聴いていただけますか」

天才少年としては、完璧でない演奏のまま終わるのは納得出来ないのか、弾き終わった彼は自分の演奏を振り返り、私にそう言った。

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