Raindrop~Mikoto side
「その点では君は合格だった。老舗企業の一人娘で、新進気鋭の美人ヴァイオリニスト。話題性も十分だ。それに、俺の好みだしね」

ニコリ、と笑みを浮かべた一条隆明は、ソファから立ち上がって私の目の前にきた。

そうして身を屈め、私の背後に片手をついてまた笑った。

「一条にいても俺はトップに立てない。けれど、君の父上とならそれが実現出来そうだよ。だから……仲良くやっていこうね、『水琴』」

人懐こいと思ったその笑みは、間近で見れば醜く歪んで見えた。

けれど、それでも。

私に選択権などないのだ。

「……分かりました。『隆明さん』」

頷いて、そのまま視線を自分の手に落とした。

ぎゅっと握り締めた両手の指先が圧迫されて、赤くなっていた。



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