Raindrop~Mikoto side
これだけは譲れないと言わんばかりの和音くんに、私は焦りと同時に嬉しさも感じていた。

ねぇ、だけど。

──貴方の想いを誰にも知られてはいけない。

誰にも。

……私にも。



「おにーちゃーん?」

返事がないのを不思議に思ったのか、もう一度花音ちゃんの声が聞こえてきた。

カチャリ、とドアノブの回る音がする。

それでも和音くんは覚悟を決めたかのように動かないから。

なんとしてでも彼の檻から抜け出すために、私は顔を上げて少し爪先立ちになって。

唇を掠めるだけの、キスをした。


さすがに、これには和音くんも驚いたらしい。

一瞬だけ出来た隙に、さっとそこから逃げ出した。

同時に花音ちゃんが「終わったぁ~?」と、ドアの隙間からひょっこり顔を出した。

「あ、ええ。今日は早めに切り上げたのよ。休み明けは疲れますからね」

なるべく穏やかに。何もなかったかのように微笑む。

< 228 / 251 >

この作品をシェア

pagetop