ケータイ小説 『肌』 著:マサキ

あのことは、よく覚えている……。

事故は、昼間の交差点で起きた。

その日は一日中天気が良く、雪なども降っていなかった。

マサキが事故にあう前までは、決して事故が起こらない、安全な場所だと言われていた。

車の運転手から見ても見通しが良く、視界に気を配りスピード規制を守れば、きわめて安全に走行できる道だったのだ。


けれど、事故は起きた。


歩行中のマサキを車ではねたのは、30代の女性会社員。

運転中、彼女は車内でケータイメールを打っていて、結果、信号無視をしてしまったのである。

女性は反省するどころか、警察に事情を聞かれている最中にも腹を立てており、マサキの心配をすることはなかった。

なぜなら、事故が起きた時の彼女の行動は、普段となんら変わらない日常の一部だったから。

運転中にケータイ操作をするのも、

信号が黄色から赤になったばかりのタイミングで交差点を突き抜けるのも、

彼女にとっては『して当然』『当たり前にやっていいこと』だった。

事故が起きたのは自分の不注意のせいではなく、マサキが横断歩道を歩いてきたからだ!と、彼女は言いはった。

マサキの両親は彼女に怒っていたし、私も、後からマサキにその話を聞いてとても腹が立った。

その女性は、マサキが死ななかったからそんな自分勝手なことを平気で言えるのだと思った。


マサキの怪我は全治2ヶ月と診断され入院もしたが、予定より早く完治し、大学の入学式にもスーツを着て参加できるほどに、回復は早かった。

< 138 / 187 >

この作品をシェア

pagetop