ケータイ小説 『肌』 著:マサキ
回想を切ったのは、マサキの声だった。
「見ての通り、俺は、ミオを抱けない体になった……。
勃起障害。何をしても、元の体には戻れない」
「いつから……?
ずっと一人で抱えてきたの?」
「……入院中にわかった。
事故にあった時は、入院なんておおげさじゃんと思ってた。
血の出るような傷はほとんどなかったし。
でも、実際には、仙骨(せんこつ)…腰の辺りにある神経が傷ついてた。
それが原因で、陰茎にだけ脳の命令が正常に届かなくなった」
マサキは自分の陰部を見つめた。
「交通事故にあった恐怖から、心因性の勃起障害が起こることもあるって医者に言われたけど、そんな心当たりなかったから、脊髄(せきずい)損傷で間違いない……。
治せる技術がないかどうか、ネットでもいろいろ調べた。
勃起をうながす薬とか、器具とか、情報はたくさん溢れてる。
でも、それが効くのは、精神的要因からきた勃起障害だけ。
俺みたいなヤツが元の体に戻るには、現代の医療じゃ無理なんだって……。
1年の夏休みが始まったばかりの頃、そう診断されたよ。
泌尿器科学会や、研究論文にも、脊髄損傷による勃起障害の治療法は発表されていないし、先例もほとんどないって……」