ケータイ小説 『肌』 著:マサキ
「勃起しないこと以外、日常生活に支障はない。
医者も言ってた。
仙骨の神経を損傷したら、排泄のために介護が必要なほど重度の後遺症が残ってもおかしくなかったって。
立って、歩いて、普通の暮らしをできる俺は、幸せな方だって。
世の中には、交通事故で亡くなる人も大勢いる。
なのに罰当たりなこと言うけど、勃起しないって分かった時は、本気で死にたいと思ったよ……」
「……」
知らなかった。
世の中に、そういう後遺症で苦しんでいる人がいること……。
交通事故のこわさ。
マサキが入院して身にしみたはずなのに、今ではすっかり、他人事になっていた。
「……そんな時、オヤジがリストラにあって大学辞めなきゃならなくなった。
金銭的なこととか、家引っ越さなきゃいけないとか、問題はどんどん出てきて、自分のことばかり考えてるわけにはいかなくなって……。
ミオに別れを告げるなら今しかないって、あの時、決めたんだ」
「マサキ……。
私は、マサキの体がどういう風でもかまわないよ!
そばにいられるなら、マサキと心がつながってるなら、それがいい……!」
「ミオ……! これは大事な問題だ。
一時の感情で決めないでほしい」
私の願いは、いとも簡単に取り下げられる。
マサキも真剣だった。