僕は自分がどれだけ幸せかを知らない
問八、Can I do it?
一月。
新学期が始まり、いくら意識が低い奴等も受験勉強を始めた。
ずっと前と言っても、半年前から始めた僕も、一生懸命勉強した。
今ならあの問に答えられる。
Q,何故勉強する?
A,(僕は)目指す場所に行きたいから。
星藍に行けば、サッカーが出来る。
勉強も出来る。
何よりも島井さんも行く。
あくまで予定なのだが、その未来に向かって今、勉強をしている。
頑張っている理由は、それだけではない。
「そこ、違う。」
プリントの数式を示唆される。
単純な計算ミスだ。
「ごめん」
最近、島井さんと過ごす時間が増えた。
といっても、放課後の三十分。
島井ゼミの集中講座だ。
推薦のときの面接の練習をする島井さんは、その空き時間を僕に使ってくれている。
充実している。
リア充だ。
ビバリア充。
永遠に続いて欲しいような、早く終わって欲しいような。
そんな時間を、毎日三十分ずつ過ごしていっていた。
「片町君は数学だけはそのケアレスミスさえなければ全国区なんだから、そこを磨かないと。」
長所を伸ばし、短所は短所ではなくする程度のカバー。
島井さんのマネジメントは、僕的には完璧だった。
「ここ!ここ!!何で2-5が7になってるの?足さないで引きなさい。」
熱血教育ママの片鱗を見たような気もした。
それでも幸せな時間を過ごしていた。

二月中旬。
僕は徐々にプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
そして、フラリとある場所へと向かった。
「ん?坊主か。珍しいな。どうかしたか?」
カタさんのダンボールハウス。
決して中で小さなロボットが戦ってたりはしてない。
「久しぶりです。カタさん。」
「そういえばそうだな。もうすぐ受験だな。勉強してるか?」
「はい、頑張ってます。」
「それは良かった。でも、あまり意気込みすぎるなよ。」
「…?」
「受験のセオリーなんて知ったことじゃないし、試験前日は寝ろとかも言えない。」
「…?」
「俺は前日まで徹夜してた奴だからな。せめて高校だけは行っとこうと思ってたんだ。そりゃあ頑張った。」
昔の話をしてくれるらしい。
「結局受かってよ。先生驚かしてやったよ。どうせ受からないと思われてたから、見返してやろうってな。ムキになって勉強したぜ。」
そういえば、カタさんは大学は出たのだろうか?
「おっと、俺のことはどうでもいいな。一応俺は東大出てんだぜ?」
輝く瞳で語りかけてくるカタさん。
「ホント?」
「マジだ。」
カタさんスゲぇー!!
「リスペクトするか?」
「はい!!」
「ホームレスを?」
「カタさんを、です!!」
「そーか、そーか。じゃあ一番の助言をしてやろう。」
「何ですか?」
「受験に一番大事なもの。それは目的だ。」
「目的?」
「そう。自分の目指す目的。ゴール。終着点。」
「ゴール…。」
「そういえばサッカーやってるんだったな。サッカーでの目的は相手からゴールを奪うことだろう。受験の目的は今回は高校に入ること。では何故その高校に入るのか。理由をとことん突き詰めて考えろ。」
星藍に入ること。
何故か?
島井さん…。
「その理由が、自分の原動力なわけだろう。たとえば、将来の夢に近づくため。応援してくれる人のため。その他健全な理由エトセトラ。自分の未来のため、他人のため。これらのために頑張る奴は大抵良い結果を呼ぶ。ソースは俺だ。」
島井さんのため?放課後まで教えてくれる。自分の時間を僕に使ってくれる島井さんのため?
だったら僕は…?
「なんかわからないことでもあったか?」
「いや。」
「ならいい。もうちょっとでその結果を求める時間が来る。お前はそこで自分のゴールを奪うんだぞ。」
「はい。」
家路に着く。
わからないことが二つわかった。
何故かカタさんの話を聞くと不安が吹き飛ぶ。
いつからか僕が島井さんのために頑張っていたこと。
あと受験の日まで少しの時間。
島井さんの合格が決まり、次は僕。
目指せ数学で満点!を抱負に、健康を考えたスケジュールで勉強漬けの数週間を過ごした。
きっと僕なら出来る。
I can do itだ!!












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