僕は自分がどれだけ幸せかを知らない
合否発表の日。
「イヤだよ。」
「行かせてよ。私も見たいの!」
「合格してなかったら…僕は…」
「合格してるから!大丈夫よ。」
星藍高校にて、合否発表が行われるこの日。島井さんが僕の家に来ていた。
「万が一に…」
「グダグダうるさい。私はあなたの先生みたいなものなのよ?行かなくてどうしろっていうの?」
確かにいろいろ教えてもらったけど…だからもしものときに…。
「あんなに頑張っていたんじゃない。受からなくてどうなってるっていうの?」
受かってなかったら落ちてるのは必須なんですよ?
そんなこと聞かないでください。
でも…その言葉に、カタさんを思い出した。
『必ず良い方向へ向かう』
信じよう。
「いいよ…。でも自分で自転車に乗って行ってよね。」
「すぐ外にスタンバイさせてるわ。」
「流石女子マネ。準備良い…。」
「あなたも早く準備済ませて、行くわよ。」
「もう準備くらい出来てるよ。」
「え…?」
いきなり驚いた表情になる島井さん。
「何?どうかした?」
「その寝癖で準備出来てたつもりなの?信じられな…」
バタンッ!
玄関のドアを閉めて、洗面所へ向かう。
鏡をチェック!!
うわぁ、久しぶりに自分の顔を見た気がする。
相も変わらず中途半端なイケメンの顔がそこにある。
後ろの髪が、爆発していた。
「昨日は僕の後頭部で何が起きてたんだ?」
一ヶ月に一回程度の頻度で起こるこの爆発ヘアーは、きっと何かの何処かの世界の戦争とか戦いの影響だと考えている。
原爆とか落とされたか?ミクロン単位の。
ものの数秒。
「完璧パーペキ!!」
妹のテニス漫画で読んだ台詞だ。
王子様は強かった。
「おろ?受かってるといいね。」
その妹に言われた。
「だな。」
玄関を開けると、道路で島井さんが自転車をまたいでいる。
「今さっきのはレディーに失礼ですね。」
「じゃあレディーファーストです。お先に出発してください。」
「私は男女差別しないの。一緒に行くんでしょ?」
2人で少し笑顔で走り出した。
まだまだ冬の寒さの残る冷たい風は、『島井さんという人の近くに僕がいる』という暖かさを際立たせてくれた。
冬に感謝。自然に感謝。世界に感謝。受験に感謝である。

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