僕は自分がどれだけ幸せかを知らない
問二、『泣かない』と『泣けない』の違いを証明せよ
試合終了。
3-2。逆転負け。
僕の中学でのサッカーはここで終わった。
勝てばもう少し続けられていたことで、悔しさに泣く部員がほとんどだった。
僕も1、2粒の雨を降らせた。
「はい、お疲れ様。タオルどうぞ。」
女子マネージャーからタオルを受け取る。
ガタッと、別の女子マネージャーが立ち上がる。その頬は濡れている。
「アンタ!!なんでこんなときにも泣かないの!?やっぱりおかしいわよ!!どうせ内心どうでもよかったんでしょ!?私たちが勝とうが負けようが!!」
タオルを配るマネージャーに怒鳴る。
誰も何も言わない。かばわない。
「タオル…配っといて。」
怒鳴られたマネージャーはそのまま走ってしまった。
怒鳴ったマネージャーがこちらに来て言う。
「洒冴君、あの子本当に泣かないのよ…。きっとこの部活も…」
僕は瞬間的に思った。
今すべきことは、ここで話を聞くよりも追いかけるべきだ。と。
「あっ、ちょっと。洒冴君!!」
「ごめん!ちょっとトイレ!!」
怒鳴ったマネージャーを振り切り、走っていった方向へ向かう。
「まったく…、泣かない女の子なんて損しかしないわ。真紀みたいな女の子はピーチクパーチク泣いて、クズ人間に育てばいいのよ。」
印象がガラリと変わった瞬間。
「島井って…そんな毒舌だったのか?」
「何?片町君か。聞いてたの?」
もっとこう…、この女の子。島井 舞は無言でも働き者のおしとやか女子だと思っていたのだが…。理想と現実派やっぱり違いますね。
「聞こえたの。」
「大差ないよ。」
「…。」
カタさんの助言を受けて、僕なりに頑張ってきた中学最後の大会。
充実していたと思う。
成績も少しだけ上がったし。いい経験になったと思う。
僕もあのときのカタさんみたいに、島井を励ましてあげたい。
「じゃあさ、『泣かない』と『泣けない』の?島井はどっちだ?大差ないか?」
島井の眺める方向を見ながら問いかけてみた。
島井の表情は今、見えていない。
「…わかんない。」
横目で見えた島井の顔が、一瞬光って見えたのは錯覚だろう。
「わかんないのかよ。」
「少なくとも今はまだわかんないわね。」
「わかったら教えてくれるか?この問題の回答、教科書に載ってないらしいんだ。」
「わかったら…ね。」


その日の晩。島井からメールが来た。
『ありがと』
翌日から、心なしか島井と話す時間が長くなったような気がする。 
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