僕は自分がどれだけ幸せかを知らない
「おっはよ~♪」
ジャッ!!
カーテンの開く音。
「ん…ぅぅ…。」
朝の日差しに目を焼かれぬように右腕で目をかばう。
「お兄ちゃん。そのまま左腕を横に広げて!!」
「ふぁ?おお。」
左腕を伸ばす。
「へーんしん!!」
ちょうど仮面ライダーの変身ポーズになっていた。
「とぉーー!!」
おのれショッカー!!
「ぐっすり寝てたねー。」
「ん?」
「なんでもな…はうっ!!」
「どうかしたか?」
「いや…ちょっと…。」
「あん?」
「なんでもない。」
何だよ。気になるじゃんかよ。
お前はドラゴ〇〇ールのスタッフか。
「ぷっ!!」
おっと、自分で自分のつっこみにうけてしまった。
ホントアニ〇ッ〇スで見たド〇〇ンボールは、来週の回が気になる展開で終わっちゃうんだよなぁ。
妹が、『何?何いきなり笑ったの?ちょっとキモい。我が兄ながらにキモい。』って目線で見てくる。
次の瞬間、その視線が哀れみに変わった。
「朝ごはん、出来てるから。」
「ああ。」
…唐突に死にたい。


「ホレ。朝ごはんは納豆じゃ。」
母さんが茶碗一杯と納豆のパックを差し出す。
「ほーい。」
「アラあんた…。」
「お母さん、お母さん。シーー…。」
「?」
なんだって言うんだ?
「あっ…。りょーかい。」
その『あっ』ってなんだよ『あっ』って。
さっきから。
どこを見てるんだ?
俺の視線より上を見ている。
…はっ!!もしかして、俺の頭皮に異常が!?
軽く上を見ると、大丈夫。前髪が見える。
父さんの遺伝子はまだ目覚めていない。
パックを開け、しょうゆIN!!
そして、おいしくなーれ!と心をこめて混ぜる。
もしくは新しい世界を作る神様の気持ちで。
ねばねばねばねば…。
ネバーギブアップ!!
今日も一日頑張りますかー。


「おはよーッス。」
登校。教室に入ると同時に朝の挨拶。
「おー洒冴。おは…。なんだその髪型?」
「髪型?」
「おお、これ見ろ。」
と言って鏡を差し出すのは友人の須山だ。
なんでお前が鏡なんて持ってるんだよ。
鏡の中には、泣き虫洒冴がいた。
「うわっ!これはっ!!」
「なんだ?寝癖か?スゲぇなぁ!!」
ギャハハ!!と笑う須山。
「寝癖というか…髪が伸びたんだな。」
小学生のとき、髪を伸ばしていた。
中学に入ってからはサッカーを始めて邪魔になるので切っていた。
最近は…切るヒマが無いくらい練習頑張ってたからな…。
「小学生のときの髪型だ。一定まで伸びるとこうなっちまうんだ。」
今度切らないとな。
「え?それもいいじゃん。結構似合ってるよ?カッケーじゃん?」
そうかな?昔はこれが原因でいじめられもしたんだけど。
「そうか?」
「俺はそーいうお前も好きだなー。」
須山は屈託の無い笑顔で言う。
「俺もそーいうお前が好きだよ。」
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