流浪少女
「ティス……!」

「お嬢様!」

お互いに手を伸ばす。

少女が暗闇に飲み込まれる正にその瞬間、ティスが一歩踏み込んで、パシッと小さな音を立てて手を取り合う事が出来た。

思わず安堵の溜め息が洩れる。

「大丈夫ですか?」

「うむ、問題はない。だが、ペンライトが下に落ちてしまった」

下を向いて残念そうに言う少女に、ティスは苦笑いを浮かべる。

「それなら、後でまた買って差し上げますよ」

「うむ……」

先程のペンライトが気に入っていたのか、落ちたのが余程ショックだったのか、少女は下を向いたままで動こうとはしなかった。

「お嬢様?」

心配そうに声をかけるが、返って来たのは人差し指を立てた“静かに”という合図。

そうして――

「ティス、もう良い。手を放せ」

「え……?」

そんな事を軽く微笑んで言うものだから、ティスは心底焦った。

「な、何を……落ちるつもりですか!?」

「そうだ」

「どうして――」

言い掛けたところで、少女の手が握っていたティスの手から離れた。

「お嬢様っ!!」


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