流浪少女
「ここには、ユキ一人だけで住んでいるのか?」

「いいえ」

ユキは静かに首を横に振る。

「この屋敷には、ご主人様が住んでおられます」

「主人?屋敷を見たが、人の気配など無かったぞ?」

「それは、今はお出かけなさっているからです」

「どこに?」

「さぁ、そこまでは……」

フィナは眉間に皺を寄せて腕を組んだ。

この屋敷には、どう考えても人が住んでいるような生活感は無かったし、屋敷の
入口には明かりを灯す電球すら設置されてはいなかったのだ。

二階は二階で物が散乱していたし、部屋など使える状態では無い。

「ユキは、この部屋を出た事は、あるか?」

「ありますよ。私はメイドですから、掃除や洗濯も、しなければなりませんから


にこやかに言う相手に対して、フィナは疑いのまなざしを向けた。

「二階が散らかっていたのだが……」

「え、あ、見ていらっしゃったのですか!?
ご主人様がお帰りになるまで、綺麗に片付けようとしていたのですが、その……
上手くいかなくて」

にこやかだったユキの表情が一変して、落ち込んだ表情へと変わる。

一体、どこをどうすれば片付けようとしてあそこまで散らかるのか理解出来な
いのだが、ただ一つだけ判った事があった。

目の前にいるこのメイドは“どうしようもない落ち零れ”だという事。


「屋敷から聞こえて来る物音というのは、ユキの仕業だったのだな」

「外まで、聞こえているのですね。
皆様にご迷惑を……申し訳ございません」

ユキは、ぺこりと頭を下げた。

しかし、一日やそこらでは、あそこまで散らかったりはしないのではないだろう
か。

散らかそうとしていたのであれば、散らかるかもしれないが……

「ご主人とやらは、いつから外出しているのだ」
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