流浪少女
「えっと……そうですね、十三万千四百時間程前に、外出されているかと思いま
す」

十三万……

ありえない時間の数字に、フィナは驚いて組んでいた腕を解いた。

「日にちに直すと……いや、直しても、かなり前だな。
帰って来るのか?」

「来ます!」



*** ***



一方――

ティスの方はというと、カンテラの明かりを頼りに二階の床にある物を探してい
た。

フィナが落ちた床の穴のその先に、斜め下に向けて伸びている階段の一部が見え
たのだ。

隠れている入口があるかもしれない。

壊れている椅子を寄せて、逆様になっている小さめのテーブルを寄せて、床だけ
ではなく壁にも明かりを照らして探し―…

しかし、入口は見つからなかった。


早く、お嬢様と合流しなければ……
きっと怪我をして、動けないでいるに違いない。


改めて周囲を照らし、部屋を見渡す。

目に止まったのは、隣の部屋へと続く扉。

「ここか」

その扉には鍵が掛けられていて、調べるのを後回しにしていたのだ。

廊下側に回ってみたのだが、同様に鍵が掛けられていた。

普通には開かないとは思うが、もう一度、扉のノブに手を掛けてみる。

「訪問者よ。探し物は見つかったかな?」

良く通る男性の声。

それは、鍵が掛けられている部屋の奥から聞こえた。

このような廃墟で、まさか人に出会えるとは思わなかった。

いや、もしかしたら、人ではないのかもしれない。

何せ最初に開けようとした時には、人の気配も声も無かったのだから。

そうしてこの声の主は、ティスが探し物をしていた事を知っている。
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