流浪少女
驚いて息を飲むティスの様子を察してるように、声の主は「はは」と笑って見せた。

「そう驚くことは無い。ああ、自己紹介がまだだったな。
私は、この屋敷の主だった。ファスト・ディダという」

礼儀正しい相手には、こちらも礼儀正しく返すのが道理だろう。

ティスは、扉のノブから手を離して、一歩下がった。

「先程は、とんだご無礼を致しまして、申し訳ございません。
俺は、ルーティスと申します」

「ふむ、ルーティスくん、か。
して、探し物は見つかったのかな?」

「いいえ」

軽く首を横に振ると、再び笑い声が聞こえて来た。

「ははは、それは残念だな」

まるでこちらが困ってるのを楽しんでいるような……しかし、こうして勝手に屋敷に上がった事を咎めないのだから、悪い人ではないようだ。

探している物を、聞いてみたら、もしかしたら教えてはくれないだろうか?

「あの、正面にある階段の他に、下に行く階段があるのでしたら、教えて頂けないでしょうか?」

「良いだろう。だがその前に、頼みたい事がある」

「頼みたい、事。ですか。俺に出来る事でしたら、何でもおっしゃって下さい」

「ああ」

一呼吸置いて、声の主はゆっくりと話し始めた――




*** ***




「良いですかフィナ様」

「うむ」

フィナが落ちたこの場所では、ユキが両手を腰に当てて仁王立ちに、フィナが正座で、説教を受けてる形になっていた。

「主人は必ず来る」と信じて疑わないその迫力に押されて、気が付いたら正座をしていたのだ。

「私には相棒が居るのです。とても小さな猫のぬいぐるみですが……」

「猫の……」

フィナの脳裏に、正面階段の上で不自然に置かれているぬいぐるみが思い浮かんだ。

「ぬいぐるみ」と言ったら、この屋敷で見たのはそれしかない。
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