流浪少女
会いたかった。

会いたかった。

この日をどんなに待ち侘びたことだろう。


早く会って、顔が見たい。

声を聞きたい。

そうして名前を、呼んで欲しい。




急いで駆け出し、階段を駆け上って廊下へ出る。

「ご主人様!」

「うわ」

そこに居たのは、片腕に傷を負った少年。

「ティスではないか」

捻った片足を引きずって、ようやく階段を上がって来られたフィナが、ユキの後ろからひょっこりと顔を出す。

「お嬢様。ご無事な様で何よりです」

ほうっと胸を撫で下ろして微笑むティスに、フィナは少し頬を膨らませて言った。

「それ程無事ではないのだが……」

ちらりと視線を落とす先には、床に付けられずにいる片足があった。

高い所から落ちて捻挫で済んだのは、不幸中の幸いとでも言おうか。

しかし、誤って床に付けてしまった時の痛みは相当なものだった。

「まさか、足を――」

「あ。あのっ」

驚いて言うティスの言葉の途中に割って、それまで二人のやり取りを見ていたユキが、申し訳無さそうに口を挟む。

ここには、ご主人様を出迎えに来たはずだったのだ。

視線を落として見ると、正面階段の上にあったはずの猫のぬいぐるみが、ティスの片足にしっかりと抱きついていた。

「うむ、その猫のぬいぐるみは確か……」

つられて視線を落としたフィナは、先程階段の下でしていた話を思い出した。

たった一つだけあった猫のぬいぐるみは――そう、主人の帰りを知らせるユキの相棒。
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