流浪少女
言葉に詰まった大柄の男性。

少年が言ったのは、事実だった。

代わりに、それまで黙っていた長身の男性が口を開く。

「俺達の席ってのは、この店に入る人なら誰でも知ってる。
暗黙の了解を得ていたと思ってたんだがな」

「俺達は、このお店に入るのは初めてなんですが」

「この……!」

どうしても譲る気が無いらしい少年に、大柄の男性がついに拳を上げて殴りかかった。

「良いから退けって言ってるんだ!」

少年が正に殴られようとしている時だというのに、少女はさして驚く様子もなく、黙ってやりとりを見つめていた。

周囲の悲鳴が上がり、床へ飛ばされたのは少年……ではなく、殴りかかったはずの男性。

「暴力はいけません」

「なら、こういうのはどうだ?」

両腕を組み、提案したのは長身の男性。

「この街の奥に、廃墟がある。
ここ十数年人が住んでいなかったんだが、最近になって物音がするようになったんだ。
あんた達がそこに行って、何が居るのかを突き止めて証拠を持って来たら、ここの席はあんた達に譲ろう」

「―…どうしますか?お嬢様」

「うむ」

持っていたスプーンを置いて、少女は口の端を持ち上げて軽く微笑んだ。

「面白そうではないか。その話、乗ってやろう」
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