流浪少女
涼しい夜風が頬を撫でていく。
草むらの虫の音は、耳にとても心地良く聞こえて、外に出たという開放感と安心感を与えてくれた。
宿までの帰り道、ティスは、ファスト・ディダの最後の言葉を思い出していた。
『よろしく頼む』と――
これで、良かったのですね?
胸中で問うが、既に言葉など帰ってくるはずも無い。
ただ自分で納得する他ないのだ。
「ティス、何があったのだ?」
肩の後ろで、フィナの声がした。
足を捻挫してしまい歩けないからと、ティスが背中におんぶをしていたのだ。
「私が落ちた後、一体何があったのだ?ユキの主人には会ったのだろう?」
「会いました」
軽く深呼吸をして、夜空を見上げる。
確かに、屋敷の主だったファスト・ディダとは会う事は出来た。
「あの後、開かない扉を見つけました。
そこから男性の声が聞こえて、お嬢様が居る場所に案内する代わりに、ユキさんに伝言と、旅に出す事を頼まれたんです。
了承すると、開かないはずの扉が開いて……」
「居たんだな?ユキの主人が」
ティスは、静かに頷いて、ゆっくりと続きを話した。
「大きめの椅子に腰掛けて、胸には、槍が突き刺さっていました」
そうして、年月も経っていた為か、ファスト・ディダは半分以上が白骨化していた。
が、この幼い少女を前にして、そこまで言う必要は無いだろう。
「惨いな。長い旅に出るとは、そういう事だったのか。
しかし、何故ユキは開かない扉を開けようとしなかったのだ?」
「開かないなら、開ける必要は無いと感じたのでしょう。元々、心など持つ事が無いロボット――メイド型レプリロイドだそうですから」
「そ、え……?あのユキが、ロボット!?」
「気が付かなかったんですか?瞬き一つしなかったじゃないですか」
「そんなの、気付くわけないだろう!」
街の中心部にある宿屋に到着した頃には、朝の早い隣のパン屋などが店の奥で明かりを付け始めていた。
夜が明けるまで、あと少し。