流浪少女
それどころか、受けた腕には鉤爪でやられた様な跡があり、血が滴り落ちていたではないか。

刃物でやられた感覚など、無かったというのに。

「何者ですか!?」

問うと、壁に激突した者がゆっくりとこちらを振り返った。

「!?」

「っ……!」

その顔、容姿は、焦げたように黒くなっており、肉も爛れていて二人を驚かせるには充分だった。

始めはボソボソと言葉を発していた黒い者は、やがて枯れた声を荒げて再びティスに向かって襲いかかって来た。

「俺は捕まらないぃ!」

振り上げた拳を躱して、腕を掴んで床に叩き付ける。

やはり手応えは無く、それでも黒い者は枯れた悲鳴を上げて床に這いつくばった。

「いきなり襲いかかるとは、危ない奴だな。
何者だ?」

少女の言葉にも耳を貸さず、ただボソボソと言葉を紡ぐのみ。

焼け爛れた肌、鉤爪に、先程の“捕まらない”という言葉。

ティスの脳裏に、いつか見たチラシの一文が過ぎった。

「まさか、貴方は」

「知っているのか?」

「以前、宿屋の掲示板で見た事があります。
過去五人もの婦人を殺害した連続殺人犯、キル・ザスク。そうではありませんか?」

その言葉に、黒い者はピクリと反応した。

どうやらティスの推理は当たっていたようだった。

「ぁああ!!」

叫び声と共に押さえ付けられていた腕を強引に解き、間を空けずに回し蹴りを入れる。

「おっと」

寸でのところで避けたティスは、少女に持っていたカンテラを差し出した。

「お嬢様、下がっていて下さい!」

「うむ、解った」

差し出されたカンテラを両手で受け取り、戦いの邪魔にならない場所まで下がってから向き直り、ティスが周囲を見られるようにカンテラで照らしてやる。

「あなたは、既に爆発事故に巻き込まれて命を落としているはずです!」

襲いかかる拳を次々と避けては受け流して床や壁に叩き付ける。

見た目はティスが有利に見えたのだが、叩き付ける瞬間に、ティスもまた傷を負っていた。

幾つもの爪痕から血が滴り落ち、黒い者を痛め付ける程に傷が深まっていく。

< 7 / 25 >

この作品をシェア

pagetop