流浪少女
相手の手応えが感じられないからこそ、まるで自分を傷付けてる錯覚さえ感じてしまう。
「キル・ザスク!現実を受け入れて下さい!」
腕を掴んで真横へ引き寄せ、真後ろの腕の付け根に拳を叩き込んで床に落とす。
すぐさま掴んだ腕を背中に回して押さえ付けた。
痛そうに呻く相手に、肩で息をしながらも言葉を続けた。
「落ち着いて。あなたはもう、誰にも追われてはいません。
だから……」
「俺は、死んでいた、のか」
ようやく話を聞いてくれた黒い者――キル・ザスクに、ティスは軽く微笑みを浮かべた。
「そうです。だから、安心しておやすみなさい」
「―…そうか」
そうして、キル・ザスクの姿は空気中に溶けるかの様に消えて無くなった。
手応えが無かったのは、相手に身体が無かったから。
つまり、ティスは幽霊と戦っていたらしい。
安堵の溜め息をついて、傷付けられた腕を押さえる。
「ティス。あの者は、自分が死んでいた事に気付かなかったのだな」
言いながら少女が駆け寄って、心配そうにティスの傷付いた腕を見つめた。
「はい。きっと、気付きたくなかったのでしょう。
それ程までに、兵士には捕まりたくはなかったかと――」
何とも恐ろしい程の執念で、彼の魂はこの屋敷に逃げ込んでいた。
長かった逃亡生活にも終止符が打たれ、彼は安心出来ただろうか。
いや、きっと安心しているに違いない。
「ティスに怪我を負わせてしまったが、廃墟に住む者を突き止める事が出来たな。
これでようやく――」
ようやく、戻る事が出来る。
そう言い掛けて、またあの奇妙な物音が屋敷内に響き渡った。
ゴトンという何かが落ちた音と、同時に今度は時計の針が一定の時間を指した時に鳴る鐘の音。
「どうやら、まだ居るみたいですね」
「これで終わりでは無かったか」
「キル・ザスク!現実を受け入れて下さい!」
腕を掴んで真横へ引き寄せ、真後ろの腕の付け根に拳を叩き込んで床に落とす。
すぐさま掴んだ腕を背中に回して押さえ付けた。
痛そうに呻く相手に、肩で息をしながらも言葉を続けた。
「落ち着いて。あなたはもう、誰にも追われてはいません。
だから……」
「俺は、死んでいた、のか」
ようやく話を聞いてくれた黒い者――キル・ザスクに、ティスは軽く微笑みを浮かべた。
「そうです。だから、安心しておやすみなさい」
「―…そうか」
そうして、キル・ザスクの姿は空気中に溶けるかの様に消えて無くなった。
手応えが無かったのは、相手に身体が無かったから。
つまり、ティスは幽霊と戦っていたらしい。
安堵の溜め息をついて、傷付けられた腕を押さえる。
「ティス。あの者は、自分が死んでいた事に気付かなかったのだな」
言いながら少女が駆け寄って、心配そうにティスの傷付いた腕を見つめた。
「はい。きっと、気付きたくなかったのでしょう。
それ程までに、兵士には捕まりたくはなかったかと――」
何とも恐ろしい程の執念で、彼の魂はこの屋敷に逃げ込んでいた。
長かった逃亡生活にも終止符が打たれ、彼は安心出来ただろうか。
いや、きっと安心しているに違いない。
「ティスに怪我を負わせてしまったが、廃墟に住む者を突き止める事が出来たな。
これでようやく――」
ようやく、戻る事が出来る。
そう言い掛けて、またあの奇妙な物音が屋敷内に響き渡った。
ゴトンという何かが落ちた音と、同時に今度は時計の針が一定の時間を指した時に鳴る鐘の音。
「どうやら、まだ居るみたいですね」
「これで終わりでは無かったか」