流浪少女
二階へと足を踏み入れた二人が最初に目にしたものは、小さな猫のぬいぐるみだった。
階段を上がってすぐの場所に、たった一つだけ、ぽつんと置いてあったのだ。
「何故この様な所に置いてあるのだ」
少女が小さな声で呟く。
頭は壁側、足は階段側。
確かに、誰かが落としたにしては不自然だった。
「奇妙な配置ですね」
ティスもまた、小さな声で言葉を返す。
カンテラで周囲を照らしてみると、廊下は一階同様に左右に別れていた。
その先にあった扉は両方とも開かれていて、軋んだ音を立てて少しだけ動いていた。
少女が側に居る事を確認して、まずは――右側の部屋へと歩を進ませる。
家具が壊れた物だろうか、木の破片やら布やらが散乱していて、部屋に近付く度にそれは酷くなっていた。
「足元に気を付けて下さい。先の鋭い物がいくつかありますから」
そう注意を促して、部屋の出入り口の縁に手を掛ける。
すると、今度は真後ろでカチカチという音が鳴り始めた。
またあの怪音かとも思ったのだが……
「―…お嬢様、何をしていらっしゃるのですか?」
振り返ってみると、少女がペンライトを手に、付けたり消したりを繰り返していた。
「少しは役に立つかと思ってな。取り出してみたのだが」
明るさは、流石にティスが持つカンテラには敵わないものの、狭い筒状の所から発せられる光は、細かい部分を見るには最適だった。
「気になる所に照らしてみると、何か発見出来る物があるかもしれませんね」
「うむ。一応、持っておくとしよう」
さて、部屋の中だが――
とにかく散らかっていて、一歩進む毎にガラスの破片か木の破片を踏み付ける音がした。
散らかっているのは小さな物ばかりではなく、足が折れた椅子や洋服箪笥、半分に折れたテーブル等々があり、足を運ぶ場所を選ばなければ先へは進めなかった。
入口から何歩か進めただろうか。小さな破片を踏む音に混じって、バキッと一際大きな音が聞こえて、少女は息を飲んだ。
足元の床が抜けたのだ。