野良猫みたいな男 ■

彼は何も言わず、ただ私の前に座って
泣きじゃくる私の顔をじっと見つめていただけだった。


なんだか、
じっと見られるのも恥ずかしいし
だんだん冷静になってきて
あふれてた涙も、止まってきた。


「---ねぇ。
 あなた、なんで座ってるの?」

「アサコが座ってるから。」

「…・・・変な人。」

「そう?
 アサコ・・・

 なぁ・・
 さっきの『ダイスケ』追っかけなくていいのか?
 あいつがアサコを泣かせたんだろ?」

その言葉に私は
ぐっと胸の奥が痛くなる。

「あなたが私の猫だなんて、
 意味深なことを言うからっ!!」


私は、手の中にある合鍵をギュッと握りしめて、
彼をにらんだ。

そうだ。
大輔の誤解が解けなかったのも、彼が変なこと言うからーー


「でも、アサコは猫だと思って
 写真を撮ったんだろ?
 だから、アサコにとったら猫 だろ?」


ーーーはぁ?

なんだかよくわからない理論を突き付けられて、
私の頭ではよく理解できない。


「何言って・・・むぐっ」

突然、顔を布でぐしゃっとされて、
思わず息が詰まる。

彼がしていたネクタイで私の涙をふかれたというのを
理解するまで少し間があった。


「ちょっと。なにすーー」

「黙って。」

ぐいぐいと、頬にネクタイを押し付けて
涙をぬぐう。

そして、しゅるりとその涙でぬれたネクタイを外して
手や床も丁寧になぞって拭いてくれた。


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