平成のシンデレラ

持つべきものは優秀な部下だ。
オフィスに到着した時には、昨夜の女について住所から既往症まで
個人的な情報としてはほぼ完璧とも言える調査を済ませ
データとしてパソコンのフォルダに保管されていた。


「あの女、東洋に居たのか」
「はい」
「じゃこれは・・・東洋コーポレーションのデータベースから?」
「ええ、技術関係のデータはさすがにガードが強固ですが
パーソナルデータはさほどでも」


まあそれなりに手は込んでいましたが、などと
涼しい顔をしてサラリと言うが、東洋といえば大企業だ。
そこのセキュリティが「さほど」だとも「それなり」だとも思えない。
頭脳明晰な秘書のハッキングテクニックを褒めるべきだろう。



「さすがだな」
「恐れ入ります」



画面をスクロールさせて最下部に記された現況を見ると
7月末で東洋を退職し、その後は実母の経営する人材派遣会社
「はるかぜ」に派遣社員として登録、となっていた。



「はるかぜ?!」
「ご存知ですか?」



はるかぜといえば、毎年別荘へハウスキーパーを派遣してもらっている会社だ。



「まあ・・・な」



面白くなってきた。



「しかし・・・なぜ東洋を辞めたんだ?それなりのポジションにいたのに」
「調査しますか?」
「ああ、頼む」
「承知しました」


取りあえず欲しい情報は手に入れた。
後は白川に上手く計らってもらえばいい。
今年の休暇が楽しみだ、と思わず零れた笑みに
傍らの秘書がやれやれとでもいうようにため息をついた。
あまり破目をお外しになりませんように、と。

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