平成のシンデレラ
第四章 ~From his viewpoint ~
その日、帰宅したのは明け方だった。
音をたてないように気を使うでもなく、かといって
わざと音を立てるでもない帰宅は普段と変わりない。
バタバタとせわしく慌しく振舞うのは
何時いかなる時であれ無様でしかない。
かすかな自分の足音だけが響くしんと音がするほどの静寂の中で
確かに居るはずの香子の気配を伺ってみる。
「寝てる・・・か」
そうだろうな。腕の時計を見れば午前4時近い。
このまま自室へ向かうか、香子の部屋へ向かうか。
僅かに逡巡した後で後者を選んだ。
ドアノブが何の抵抗もなく回って扉が開いた。
バカ野郎。家族でない男と一つ屋根の下に暮しているのだから
寝室のドアにカギをかけるくらいの用心はしろ。
・・・と思いつつ、施錠されていればされていたで
忌々しさに舌打ちをしただろう自分に苦笑する。
思い通りにならない事が気に入らないのに
思い通りになるのも気に入らない。
そんな矛盾した思いが煩わしくて邪魔だった。
だから恋愛になど本気になることはなかった。
それなのに今はそんな煩わしさも悪くないと思っているのだから不思議なものだ。
本当の恋をすれば貴方にもわかると昔言われたことがあったな。
あれは確か聡明で控えめな年上の女。初めての女だったか…。
そんな懐古の情にふと足を止めた束の間で
薄暗さに目が慣れてくるとベッドの上に丸まっているのが香子だとわかる。
煩わしさの原因で、何よりも愛しい存在。
まるで矛盾を形にしたようなものだ。
「…まったく」
同伴者である俺に断りも無く黙って会場を抜け出した
このせっかちなお姫様は化粧も落とさず眠ってしまったらしい。
「待ってろと言っただろうが」
犬だって躾けられればちゃんと主人を待っているというのに。
「お陰でこっちは大変だったんだぞ」