「1/4の奇跡」左側の君に【完】
駅に続くエスカレーターの前で、
和泉は私の後ろにまわって
先にのせてくれた。
「ほらね、こういうとこ。
和泉って優しいよ」
後ろにいる和泉にそう言うと、
「前向け、ばか。
あぶねーから」って目をそらした。
小さくもなく、大きくもない中規模の駅。
二つのホームがあって、
私は2番線
和泉は3番線
2番線と3番線は線路挟んで向き合っている。
別々のホームへ降りるから、
改札通ったところで、和泉とは分かれる。
二人で改札を抜けると、
和泉は私の前に立った。
「じゃあな。
気をつけて帰れよ」
「うん・・」
和泉はそれだけ言って、自分のホームへと
階段を下りていってしまった。
和泉が見えなくなるまで、その場から見送って、
私も自分のホームへと下りていった。
ホームに降りると、
向かい側のホームに和泉が立っていた。
私が小さく手を振ると、
和泉は周りをキョロキョロしてから、
うんうんと小さく頷いた。
その時、和泉の乗る電車が来てしまって、
和泉が見えなくなった。
そして電車がゆっくりと止まった。
そんなに混雑していない車内、
和泉はどこに乗っただろうかと、
電車の中をよく見ると、
和泉は空いている席には座らず、
真っ直ぐに、私のいるホーム側のドア付近に立った。
和泉にこっちを向いてほしくて、
さっきよりも少し大きめに手を振ると、
和泉がこっちを向いた。
気づいた・・・
するとやっぱり和泉はうんうんと頷くだけで、
和泉の向こうで扉がしまり、
そのままゆっくり電車が動いて、
和泉が見えなくなった。
静かなホームになった。
電車を待っている人は何人かいるのに、
なぜだか、
ひとりぼっちな気分になった。