「1/4の奇跡」左側の君に【完】
その日の放課後、
拓人はいつものバスケ部のエナメルバッグではなく、
学校指定のバッグを肩にかけた。
・・・本当にやめちゃったんだ・・・
拓人はマフラーを巻いて、
教室から出て行ってしまった。
「追いかけなくていいの?」
前の席の詩織が心配そうに言ってきた。
「私は莉子と二人で帰るから。
頑張って、花音」
詩織は私の肩をポンポンと優しくたたいた。
「詩織っていつも優しいね。
私がウジウジしていると、
いつも私を・・」
「わかったわかった。
その話は明日聞くから。
早く追いかけなさい」
あははっと詩織は笑った。
「うん」と頷いて、教室から出ると、
莉子が廊下にいて、
「和泉なら、職員室の方へ行ったよ」って、
何も言っていないのに教えてくれて・・
「ありがとう」って本当に感謝しながら、
私は職員室の方へと走った。
走って走って、
「こらー廊下走んなよー」って先生に注意されたけど、
そんなのおかまいなしに走った。
そして職員室前の角で曲がった時、
「わっ」とぶつかりそうになって、
よろけた。
ぶつかりそうになった相手に、
ふわっと片手で体を支えられた。
「あぶねーなぁ・・」
気づくと拓人の胸の中に収まっていて、
見上げると
マフラーの上から、大きな瞳がこっちを向いていた。
「拓人・・」
「何してんだよ、そんな走って・・」
拓人は私から腕を離した。
「拓人を探してた。
一緒に・・帰りたいって思ったから・・」
私の顔を見て拓人の表情がふっと緩んだ。
「お前、バッグは?」
あ・・・
「下駄箱で待ってるから、帰る準備してこい」
そう言って拓人は、
大きな手で、私の前髪をくしゃくしゃっとした。