「1/4の奇跡」左側の君に【完】
「帰るか・・」
拓人が立ち上がり、
少し歩いて振り返った。
私も立ち上がって拓人の元に駆け寄った。
二人で並んで駅へと歩き出した。
そっと拓人の右手の指を掴むと、
「ん?」と振り返って、拓人は立ち止まった。
そして、拓人はその手を離した。
「ごめん・・・」
自分の行動が恥ずかしくなって、
思わず謝った。
すると拓人は、
私の右手を繋いできた。
「こっちが落ち着くかも・・俺・・」
そして手を繋いで、
また歩き出した。
駅の改札を抜けて、
それぞれのホームへ別れる場所まできた。
そうだ・・今日は・・・
「拓人今日、
深夜0時を過ぎたら、
空をしばらく眺めてみて」
拓人は首を傾げた。
「・・・空?」
私は頷いた。
「わかった」
「じゃあ・・また月曜日ね・・」
拓人は自分のホームへと降りていった。
私はホームへと降りて、
向いのホームにいる拓人をみつけて、
小さく手を振った。
拓人はいつもうなずくだけで、
手を振ってはくれない。
私は登録したばかりの拓人のアドレスに、
メールをすることにした。
============
拓人へ
アドレスありがとう
またメールするね(^^)
私のアドレス
canon***.***
花音
============
短い文章ですぐに送信すると、
拓人がポケットに手を入れた。
その時、拓人の電車が来た。
電車が止まり、ホームから中を見ていたら、
拓人が携帯画面を見ながら、
こちら側のドア付近に立った。
私が手を振ると、拓人が顔を上げた。
扉が閉まり、ゆっくり電車が動き出した時、
拓人が携帯を持っている手をちょっとだけ上げて、
ペコっと頭を下げた。
・・・なんか嬉しい・・・
そしてまた、
ホームにひとり残った。
でも、ひとりぼっちな気持ちにはならなかった。
拓人と繋がっている。
拓人のいないホームでも、
私はちっとも
さみしくなかった。