『歩』〜人は愚か〜
ある日久しぶりに兄と遅刻して小学校に登校しようと家を出た

でも、兄は学校には向かわなかった


「どこに行くの?」

私が訪ねても答えない

私は、ただ黙って兄に付いて行った

「疲れた~」と私が言うと

兄は黙って手提げ袋を持ってくれた。

長くとにかくたくさん歩いた。

お腹すいた事も、のどか湧いた事も

気付かずにただ無我夢中で兄の後に付いて行った。

三つ目の駅を過ぎた時には、
私のランドセルの中身は空になっていた。

もう、日が傾き始めた頃

兄は一台の自転車を駐輪所から盗んだ。

兄も、疲れているのに私を後に乗せて

自転車を漕いだ

「どこに行くの?」

ともう一度聞いた。

「おばあちゃんの家」

それだけ言ってまた兄は黙って自転車を漕いだ。

私は、兄の背中を見ながら

この人だけは、私をきっと見放さないだろうと漠然に思った。


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