白と黒の神話
 こともなげにそういっている男。それは彼にとってはあまり意味がないということである。しかし、少女にとってそれは気になって仕方がないことであるのだった。


「わたくしは、あれを持ってくることができませんでした」

「仕方なかったよ。あそこで彼が出てくるなんで思ってもいなかったんだから」

「マスター?」


 どうしてそのことを知っているのだろうという思いが少女の顔に浮かんでいる。それに対して、男は穏やかな表情を変えることなく話していた。


「これがあるからね。あそこであったことは全部わかっているよ」


 玉座の傍らにある水鏡をさしながらそう言う男。そこに浮かぶ微笑は見るものを魅了する力があるのだろう。少女はうっとりとした顔で相手をみつめている。


「マスター。わたくしのことを怒っていらっしゃいませんの?」

「どうして、怒っていると思ったんだい、ジェリータ」
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