白と黒の神話
「一体、何があったというの。アルディス様の侍女ともあろう者がはしたない」


 セシリアは侍女たちがあたふたしている様子に咎めるような表情しか浮かべていない。彼女にしてみれば、侍女たちが回廊を走り回るのが気に入らないのだろう。形のいいその眉が不機嫌そうに寄せられている。それを見た侍女は、慌てふためくことしかできなかった。


「申し訳ありません。実は……アルディス様のお姿がみあたらないのです」

「何ですって!」


 侍女の報告にセシリアは柳眉を逆立てている。そして、侍女を押しのけるようにすると、ある部屋を一目散に目指していた。その姿はいつものセシリアからは考えられるものではない。そのためだろうか。侍女たちは一様に目を丸くすることしかできなかった。


「アルディス様!」


 激しく部屋の扉を叩いてみても返事はかえってこない。それは、侍女たちの言葉を裏付けるものだろう。そのことにセシリアは意を決したように部屋の扉を開け放っていた。
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