白と黒の神話
 そう、この少女はグローリア王宮の宝物庫からシュルツの手で弾かれたジェリータだった。兄であるシュルツに弾き飛ばされた彼女は、今の居場所に戻るしかなかったのだ。もっとも、彼女自身はそのことを当然と思っている。彼女が気にしているのは『目的を果たせなかった』それだけだった。


「本当に怒っていらっしゃいませんの? あの秘文書は必ず手に入れるようにとおっしゃいましたのに」

「そのかわりにお前が怪我でもしたら大変だからね。お前がこうやって帰ってきてくれたことの方が嬉しいよ」


 男のその言葉にジェリータはすっかり嬉しそうな顔をしている。彼女は無能という烙印を押されることを恐れていたのだ。だが、それは彼女の杞憂に過ぎなかった。マスターは彼女が怪我をせずに帰ってきたことを喜んでいる。そのことはジェリータにとっては何物にも代えがたいことであるのだった。


「マスター、そんなにわたくしのことを心配してくださいましたの?」
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