白と黒の神話
「わたくしはマスターに従います。それとも、それを信じてはいただけないのでしょうか」


 そう言うジェリータの胸のうちは千路に乱れている。マスターは自分を必要ないものとみなしているのではないだろうか。そんな不安が胸をよぎっている。そして、彼女はその思いを押し隠すかのように懸命になっている。


「マスター、信じてくださいませんか? わたくしにはマスターだけが頼りなのです」


 今にも泣き出しそうな顔になっているジェリータ。その彼女をスッと抱き寄せている相手。


「わかっているよ。お前を試すようなことを言って悪かったね。私はお前のことを信用しているんだよ。そうだろう。信用しているから秘文書のことを教えたんだよ。あれは、存在自体が隠されているもの。誰にでも教えられるものじゃない。それはわかるよね」

「わかっておりますわ、マスター」


 彼の言葉に表情が明るくなっていくジェリータ。あふれかけた涙をぬぐうと精一杯の笑顔を浮かべている。
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