白と黒の神話
 男は自分の背後から聞こえてきた女の声に、振り向くことなく答えている。


「今、帰ってきた。だが用心しろ。シュルツが接触してきた」

「あの方は本当に妹思いですから。でも、それは無駄な努力ですわ。ジェリータは王の人形でいるしか生きられないのに」


 そう言いながら姿をみせた女。彼女の大きくウェーブのかかった黒髪と真っ黒な瞳。それはこの場の色彩にこれ以上はないほどに似合っている。そして、身にまとう黒のドレスは胸を大きく開き、太腿の半分近くまでスリットが入った大胆なもの。彼女をみていると『妖艶』という言葉しか浮かんでこないだろう。彼女は自分が邪霊王と呼んだ男にしなだれかかるようにしているのだった。


「マレーネ、もう一つの人形はどこに行ったのかわかったか?」

「わかりましたわ。でも、厄介な場所」


 そう。ジェリータがマスターと呼んでいたこの男が、シュルツのいっていた邪霊王だったのだ。そして、ジェリータに見せていた顔が仮面だとでもいうように、今の彼はいきいきとした表情になっている。
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