白と黒の神話
 それは、人間の弱さをさらけ出したあまりにも惨めな光景であったのだろう。グラン・マは痛ましいものをみたかのように目を背けている。しかし、いつまでもそんなことをするわけにはいかないことも彼女にはわかっている。


「ばあさん、こんなところをうろちょろすんじゃないぞ。目障りなんだ!」


 自分につっかかってくる相手の手首をグイッと握っているグラン・マ。その目に浮かんでいる光は巫女の装束には似合わない物騒なものともいえる。


「ばあさんはないだろう。それに、あたしにはあんたみたいな極道は身内にはいないよ」

「ばあさんだと思っていたら好きなこと言いやがって!」


 そんな相手の手首をグラン・マは簡単に捻りあげている。


「ばあさん、やるじゃないか」


 ニヤリ、と笑う男たちの視線に怯えるようなところはグラン・マからは感じることができない。彼女はどこか憐れみのこもった声で呟いているだけ。
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