白と黒の神話
第9章
 高い天井に響く祈りと讃美の声。太い柱が支えるアーチ状の天井。そのいたるところに描かれている神の栄光と創世の神話。供物を捧げる煙。回廊のあちらこちらをゆったりと歩いている神官。ロザリオを繰りながら祈りを捧げている巫女。そこは祈りの場であり、信仰の中心地。東の宗教国家と呼ばれるフェーベの大神殿だった。

 そして、その大神殿の奥深くに創世神の代理人といわれる聖教皇の暮らす場所があった。聖教皇という宗教界の最高権威者の暮らす場所は、王候貴族のそれとは変わらぬ華やかな部分も持っていた。飾られている見事な絵画、どっしりとしたドレープのカーテン、細かな細工の施された家具。どれもが見事なものばかりである。そんな中、聖教皇ベネディクトゥス8世は難しい顔をして、一通の書状に目を通していた。


「聖教皇様、いかがなさいましたか」

「心配するな。少々、厄介な書状を目にしただけだ」

「厄介な? 本日はそのようなものはなかったと思いましたが」
< 236 / 314 >

この作品をシェア

pagetop