白と黒の神話
 その彼女の目に映ったのは、誰もいない部屋。しかし、特に荒らされたというような気配はない。いつもと同じように朝食の準備がされたテーブル。それはセシリアの見慣れたものである。だが、そこにいるはずの部屋の主の姿だけがないのだ。


「アルディス様……」


 それを見たセシリアは、まるでわけがわからない、という表情を浮かべている。しかし、こうしてもいられないと思ったのだろう。彼女はその場にいた侍女を問い詰めていた。


「このことを他の者にも話した?」

「いえ、そのようなことはしておりません。まずは、セシリア様にご報告しなければと思いましたので……」


 侍女のその言葉に、セシリアはほっと息をついている。そのまま、彼女は部屋の中を見回しながら侍女たちに指示を与えていた。


「いつもと同じようにしているように」

「で、でも、セシリア様。それは不可能ではありませんか?」
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