白と黒の神話
 それだけを言ったセシリアは、静かに部屋の扉を閉めていた。彼女は、この事態をどのように国王に説明しようかと懸命に考えているのだった。


 そして――。


 セシリアからこのことを知らされたウィルヘルムは、困惑した表情を浮かべることしかできない。ここグローリアの国王として君臨している彼にとって、アルディスは掌中の珠ともいえる愛娘である。先日、十九の誕生日を盛大に祝ったばかりの彼女は、国一番の美女ということでも知られているのだった。


「セシリア、そなたの言葉を疑うわけではない。しかし、本当にアルディスはおらぬのか」

「はい、陛下」


 セシリアのその返事にウィルヘルムはどうすればいいのかと悩んでしまったようだった。彼にはアルディスが姿を消したということがどうにも信じられないことだったのだ。それでも、セシリアのことを信頼も信用もしている彼は、その言葉を疑っているわけではない。
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